酔吟集






凍てついた 心を溶かす熱い酒 静かな宵に 舞い落ちる雪


泡の立つグラスを見つめ 想うのは 1日分の 僕のいいわけ


なにもかも 死と静寂に閉ざされた 白き世界に 咲く寒椿


蒼天に かかる雲さえ 吹き飛ばす 荒涼とした 神の棲む場所


暖かい 外が冷えれば冷えるほど 炬燵と鍋と 君の笑顔と


背を向けた あなたの前に横たわる 無限の空と 有限の海


寒さなど とうに麻痺して感じない 心にかけた 言葉の麻酔


なにひとつ 諦めないと決めたから かなえられるさ そう信じてる


清廉な 朝の空気を揺らしつつ 霜踏む音に はしゃぐ我が子よ


あの時の あなたの声が聞き取れず みぞれ混じりの 道たたく雨


眩さに 目を逸らし行く 後朝(きぬぎぬ)よ この残り香と 鳥のさえずり


手のひらで 刹那に消えた初雪の その儚さに なにものか見る


現世(うつしよ)と 夢の狭間を彷徨えば 紫煙のごとき 自我の明滅


木枯らしの 乾いた風が吹きすさぶ 君の心に 優しい氷雨


その嘘の 罪を地獄に持ち逝くと 心に決めた 冬の深更


しんしんと 静かに落ちる 牡丹雪 浮世の澱を 白く隠して


檻ありてこその自由と知りながら またその檻を 壊そうとする


街路樹の イルミネーションに照らされた イヴを彩る 白き妖精


葛藤と迷いの中に 君は住む 肉の悦び 祈りと叫び


寒ささえ 忘れるほどの せつなさと 痛みを消して イヴの夜の夢


後悔は 役に立たずと知りつつも また繰り返す 人の営み


1人いる真冬の闇に 酔えもせず ただ静寂が 流れゆきたり


雪景色 朝の光に目を細め 吐く息白く 急ぐ道行き


容赦なく あらゆるものがポンコツに なりてゆくこそ 楽しかりけり


宵闇に 白き花散る ひさかたの 雪か梅かは 誰(たれ)問はむかや




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