酔吟集






冬枯れの あの街路樹に 若葉萌ゆ 歳を重ねて またひと回り


青空に 薄紅の雪が降り 忘れたものを 思い出させる


雪雲が 重く垂れこむ冬過ぎて 若葉の香る 風が吹きたり


何度でも 元に戻ればいいじゃない 凹んだ夜も 歌唄いつつ


朝日差す 川辺の岩に瀬音立つ 雪解け水は 澄み渡りたり


少しずつ 距離を離して考える 消え行くための 上手いいいわけ


生ぬるい 春の夜風と 添い歩き 右手(めて)に従い来る 朧月


散り惜しむ花 吹き飛ばす春の風 蒼天すでに 雲1つなし


咲き初める 梅の白さに重ねたる 白衣の君の 頬染めた貌


心には 大きな傷はないけれど 忘れてくのが ひどく哀しい


擦れ違う 言葉と心 もどかしく ただ抱きしめて しまいたい夜


藤棚に 雨宿りする 岡崎の 城は往時の 面影もなし


慰める言葉も なにも出やしない この歯がゆさと この不甲斐なさ


ただずっと 一緒にいたいと言ったから それが嘘でも いま悔いはない


新緑の 梢に隠れ時鳥(ホトトギス) 湖畔の道に 爽やかな風


儚さと共に あなたは去ってゆく せつない想い 春の夜の夢


独り寝の 寂しさ隠す強い酒 弱さに酔って ただ眠るだけ


桜散り 緑の若葉萌え出ずる 終わりじゃないと 始まりだよと


来し方と 未来を繋ぐ 虹色の 橋が見えた日 キツネノヨメイリ


足許に 広がる星は 人間の 爛れた欲の 行き着いた先


山肌に 遠くたなびく春霞 想い遙かに 見えぬ行き先


頭蓋から 流れ出る血をシャツに受け 人の死に目に 呆然とする


アスファルト 割りて花咲く たんぽぽの 野生のつよさに ものを教わる


朝霧と 冷えた湖水を渡る風 肺腑に入れて 我生き直す


君は逝く 桜吹雪の遊歩道 羨ましげに 僕は見上げる




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