酔吟集






皓々と 降り注ぐのは いにしえの人が 見たのと同じ月光


言い難いこの苛立ちに 紫煙吐く 酔うに酔われず 寝るに寝られず


びょうびょうと 靡く海原 すすきの穂 焔のごとき その命かな


消え果てた 夢の在処(ありか)とため息を 忘れぬように 独り行く旅


秋雨の セピアの世界に浮きあがる 落ち葉でできた 派手な絨毯


遠き星 見やりて想う人の世の この小ささと この愚かしさ


肌寒い 宵にあわせて温め酒 月と虫の音(ね) 酒の肴に


ただ1人 煙草と過ごす夜更かしに 孤独の愉悦 シアワセの檻


嫋々と 鳴る銀線のその音の 深き想いに 心振るわす


悲しみに 寄り添うようにひっそりと 闇にたたずむ 紫の花


心地よい 秋の夜長とこの孤独 泡のグラスに 浮かぶ言の葉


いつの日か そうなるための今だから やせ我慢だと 人が言っても


朝霧の 濡れた空気に焔立つ 細い煙草に 命宿して


高き空 木(こ)の下闇に逃げ込んだ 乾いた風に 遊ぶ黒髪


頂(いただき)を目指して登る この道は 雲に霞んで 先も見えない


十五夜に 蒼いウサギと飲みたくて 縁側に出て 空を見上げる


打たれても 疲れ果てても 立ち上がる 可憐な姿 まるで秋桜


どこまでも 逃げられぬ檻 脳髄は どうどう巡り クラインの壺


夕暮れに 赤いトンボが乱れ飛び ふと振り返る 人生の秋


一日を終えて グラスに泡が立ち 酔いのまにまに 宵にまかせて


やわらかい 月の明かりを仰ぎ見て いつも通りの 冴えぬ夜かな


なんとなく 巡り合わせが 悪いよね 絡んだ糸は もうほどけない


夢破れ 落ちぶれ果てて 疲れ果て 鏡に映る 別人の顔


座り込み 眠りに落ちた黄昏に 掴みかけてた うたかたの夢


この心 縛るあなたの言の葉の 裏の意味さえ 読めぬ幼さ



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