口頭無形分化剤 その44
「血液型による性格分析」
どーゆー風の吹き回しかは謎なんですが、今日は昔話を、すこし
ばかり語ってみようかと思っています。
「血液型別の性格分析」みたいなのって、よくあるじゃないですか。
A型が几帳面で、B型が自己中、O型がおっとりで、AB型がアマノジャ
ク(笑)みたいなヤツ。
僕は、あんなものにはどれほどの価値も認めてなかったんですね。
人間の性格なんていう、本人でさえ分析しきれないよーな奇妙奇
天烈で摩訶不思議なモノが、たかだか4つの種類に累計的に収まる
なんて考えるほうが荒唐無稽だし、「几帳面な自己中」や「おっと
りしたアマノジャク」なんていう連中だって、実際にはいるわけです。
そもそも人の性格にとってもっとも重要な要素は「環境」と「教育」
によって作られる脳の神経細胞の回路図なのであって、染色体のXY
成分なんてものではありえない。
でもね。
以前、「A型の人間だけは、彼氏にするのは絶対イヤ。生理的
にダメ」って主張する女性の話を聞いたことがあるんですよ。彼女
曰く、A型の人間ってのは、大抵次のような特徴を持っているんだ
そーです。
・八方美人で、誰にでも良い顔をしたがる。
・腹の中の本音を言わずに、表面だけ糊塗して済まそうとする。
・常に自分が多数派だ(より正しい)と思っている。
この大きな特徴から派生して、
・人の和を尊ぶ(あるいは相手にコトを預ける)フリをして、決定
責任を回避し、それを人に押しつけたがる。
・言葉で間違いを認めても、内心では自分が正しいと思っている。
・都合の悪い本質に触れずに、常に小手先の細かな言いくるめで
済まそうとし、しかもそれが上手い。
僕はこの話を聞いたとき、なるほどぉ〜と考え込んでしまいまし
た。身に覚えのあるA型さんも居るのではないかしらん?(苦笑
この女性自身はAB型です。実に天真爛漫で自己中で、自分の
好きなことには凄い能力とこだわりと入れ込みと集中力と几帳面さ
を発揮する代わりに、興味のないことに対してはまったく見向きもし
ないってゆーよーなタイプです。炎のような情熱と氷のような冷徹を
共存させたような女(ひと)でした。
その女性がね。
ひょんなコトから、A型の男とつき合うようになったんですよ。
それが、しかもなかなか長続きしてましてね。
「どーなってんのよ?」って聞いてみたんですね。
そのときの、彼女の答えが秀逸でね。
「A型らしくないモノの考え方ができるように教育した」
って言うんです。
その彼氏さんっていうのは、3つほど歳が下なんですけどね。そ
れにしたって、「教育したはねーだろ(苦笑」と思いまして、いろ
いろと根ほり葉ほり聞いてみると、なかなか面白い話でしてね。
「常に私のことを先にして考えてるよーに○○(彼)は言うんだけ
ど、ホントはそうじゃないの。結局自分が可愛くて、自分に責任が
掛かるのがイヤなのね。とにかくすっごく優しいんだけど、それは
単に弱いだけ」
普段はホントにラブラブで、端で見てる方が恥ずかしくなっちゃう
よーな感じなんですけど、ひとたび喧嘩になると、それはもう凄ま
じかったようです。
彼女の言葉が、彼氏さんに通じないんですね。
「なんで○○はいつもそーなの?」
彼氏さんは、なんのことだか解らない。
仕方なく喧嘩の原因になったことを話合って、説明して、謝って
・・・。彼氏さんは、「喧嘩を納めるため」の言葉を延々並べるわ
けです。
それでも彼女には、その言葉が上っ滑りの御託に聞こえるわけで
すね。何1つ、本質に辿り着いていない。彼女は、喧嘩の原因にな
った彼の考え方そのものが腹立たしいわけです。
「結局○○は、喧嘩を終わらそうとして謝ってるだけ。本当に自分
が悪いなんて思ってないじゃない。思ってもないくせに謝るな!」
自分から折れて謝ってまで叱られてる彼氏さんも哀れなんですが、
彼女の言い分も、僕は一理あると思うんですよ。
恋人たちすべてがそうだと言うつもりもないし、恋愛観にはいろい
ろな形があるのでしょうが、この彼女が恋人に求めているのはきっと
「一体感」なんですね。
自分の考えを相手にちゃんと解ってもらい、相手の考えを自分が
きっちりと理解する。
その一体感。
そういうものが発生するためには、相手の腹の底の底までお互い
に知っている必要があり、お互いの価値観の違いを尊敬をもって
違いとして認め合っている必要があり、嘘や上辺の糊塗といったモ
ノを極端にまで排しておく必要がある。
彼女は直感で物事を認識するタイプでしたので、こういうことを
滔々と理論で述べてくれたわけではないんですが、彼女の言葉の
端々から、それを感じ取ることはできました。
「で、そういうとき、あんたはどーすんのよ?」
僕が聞きますと、
「どうもしない。彼が解るまで、自分の感情をそのままぶつけるだけ」
「・・・それでも解ってくれなかったら?」
「そのときは終わり」
それが、彼女の「教育」なんです。
なんとも潔い態度じゃないですか!
彼女は、何も難しい理屈を必要としてないんですね。赤心をもって
相手に当たる−−それだけなんです。ただ、そのすべての結果について、
彼女自身、常に覚悟を持っている。
自分が一番大事な相手だからこそ、小細工をせず、術策も用いない。
ただ、そのまま、感情のままなんです。
腹を立てれば怒り、その感情をそのまま相手にぶつける。
感情を溜めることなく、また矯めることもない。
これは相手に「媚びない」ってことです。
その話を聞いて、僕は頓悟しました。
それがつまり、「強い」ってことなんです。
僕は彼女の「優しさ」を、そのとき初めて理解しました。
自分の生の感情を−−しかも負の感情ならなおさら−−誰かにぶ
つけるってのは辛くて苦しいモンです。相手を傷つけることを知り、
自分が醜く見えることを知った上で、敢えてそれをするというのは、
妥協したり我慢したりするよりも遙かに苦痛でしょう。人間なら誰で
も、波風なく過ごしていくのが楽に決まっているし、まして大好きな
人と、わざわざ喧嘩なんてしたいハズがありません。
適当に妥協すればそもそも必要さえないその作業を、彼女は敢
えて、逃げずにやっていた。しかもそのたびに、終わってしまうかも
しれない覚悟を持ちながら。
なんてカッコイイんだろーと、そう思いました。
以来、僕の中で、ちょっとばかり恋愛観が変わりました。
なにがどう変わったってのは、上手く言えないんですがね。
僕は、好きな人を不愉快にすることを好みません。その人が不愉
快であったり、辛かったり哀しかったりするくらいなら、自分が我慢
してる方がマシだと、普通に思っていました。自分が我慢して済むこ
となら、我慢して済ませる方が得だとさえ思ってました。
ただ、そういう僕の考え方そのものを、不愉快に思う女性がいる、
ということを認識したわけです。勝手に過保護にし、頼みもしないの
に気を回すことで、そういう人はむしろ侮辱を感じるでしょう。
「相手を認める」という言葉の意味を、そのとき初めて理解したと
言ったら言い過ぎかもしれませんが、「強さ」と「優しさ」の関係
を、僕はそのとき思い知らされました。
それまでの僕の「優しさ」は、「弱さ」だったんです。
それから僕は、変わりたいと思うようになりました。
「強い」男でありたいと思うようになりました。
彼女の血液型の性格分析が正しいかどうかは証明のしようがない
んですが、僕も実は、A型だったのでね。
H.14 10/12
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