口頭無形分化剤 その32


漢字の話


 リクエスト企画も第7弾まできましたね。
 今日はヤンさんのリクエスト「漢字」です。


 僕は、ね。
 日本語が大好きなんですね。
 平仮名があり、カタカナがあり、漢字がある。
 平仮名、カタカナがそれそれに48文字。
 これに漢字を加えると、いったいいくつの文字が使われているの か、正直想像もできませんね。一説には5万字とも言われています が・・・。
 英語が、たかだかアルファベット26文字の組み合わせ で表現されることに比べると、これはホントに大違いです。

 で、この日本語ですがね。
 いつごろ成立したかってことになると、諸説紛々でして・・・

 人間が言語を獲得したのはいつかと問われれば、いつまで時代を遡ればいい のか解りませんが、日本人が文字を獲得したのはいつかということ になると、わりあい推定できますね。
 これは、だいたい1世紀−−弥生時代中期ごろのことです。

 漢字ってのは、言うまでもなく、中国で創られた文字です。
 中国ってのは、「中華」−−「世界の中心」を名乗るだけあって、 日本の王朝時代ごろまでは世界一文化水準が進んだ国だったのです ね。
 当然この国は、アジアの国々に大きな影響を与えているわけでして。
 ことに韓国や日本に与えた影響というのは、もう計り知れないわけ です。

 で、漢字ですが・・・
 本場の中国で発見されている最古の漢字は、実に紀元前15世紀ご ろのものなのだそうです。
 小学生の時に習いましたね。
 そう、「甲骨文字」というヤツです。
 日本には、だいたい1世紀ごろ、中国からの帰化人たちによっても たらされたようですね。
 漢字が生まれて、1500年も経ってからということになります。
 中国という国が、いかに進んでいたかが解りますね。
 だてにでっかくありません。

 そもそもその頃の日本って国は、先進国の中国などから見れば、もう、 まさに野蛮人の国であったわけですね。
 「国」という言葉を使うこと自体、語幣があるでしょう。
 ずっと下って、4世紀ごろの大和朝廷成立の以前には、正確な意 味での国家は、この島国には存在していなかったからです。

 当然「国語」もありません。
 日本人全員が文盲状態です。
 記録も、なにも残されていませんね。
 僅かに、中国から送られた金印の印章や貨幣に漢字が発見されている 程度でしょうか。
 いずれにせよ、その当時、日本人が独自の文字を持っていなかっ たことは確実です(アイヌ人、沖縄人に、独自の文字があった可能 性はありますが、僕の勉強不足でよくわかりません)。

 けれど大和朝廷が形の上で成立し、律令国家制度がまがりなりに も完成すると、日本人は困り始めたわけです。

「俺たち、誰も文字を書けないじゃん・・・(汗」

 当時、文字を書くことがでるということは、それだけでもう「技術者」 だったのですね。
 日本語が成立してない以上、ここでいう「文字」は、世界の文化の 発信地である中国の文字のことです。
 だから、中国からの帰化人は、文字が書けるだけで重宝されたで しょうね。
 帰化人の集団である秦氏。
 多くの帰化人を使役し、中国文化にも傾倒していたという蘇我氏な どが力を得るてくるのは、時代の要求からいっても当然であったと 言えるでしょう。

 ま、それはともかく・・・。

 漢字のことを、王朝時代、日本人は「真名・真字(まな)」と 呼びました。
 これは「真実の文字(名前)」くらいの意味であったと思います。
 まだ独自の文字を持たなかった日本人は、その漢字の音訓をその まま日本語の音節表記に転用したのですね。
 たとえば、「波流(春)」、「八間跡(やまと)」といった具合 です。
 なんか頭の悪い暴走族みたいですが、この日本語の音を拾って 表記した漢字を、「万葉仮名(まんようがな)」と言います。
 「仮名」は、「真名」に対して「仮の文字」くらいの意味ですね。

 しかし、漢字は画数が多く、書くにも覚えるにも不便ですね。
 そこで簡略化が得意な日本人が生み出したのが、 「カタカナ」と「ひらがな」です。

 漢字の部分あるいは全体を簡略化したのが「片仮名」。
 「片」は「不完全」という意味ですね。
 「省略した仮名」ですよ、ということです。

 漢字の草書体から生まれたのが「平仮名」。
 「平」は「平易な」。
 「簡単にした仮名」ですよ、ということですね。

 これらの発明によって、日本人はようやく独自の文字を手に入れた わけです。
 万葉仮名が5世紀ごろ。
 片仮名、平仮名の成立がだいたい10世紀ごろと言われていますね。


 まぁ、枕はこんなもんでいいでしょう。


 さてさて。
 僕ら「物書き」にとって、漢字は非常に重要かつ便利なものでして・・・。


 物を書く者に限ったことではないですが、人間にとって重要な行為 のひとつに、「伝える」ということがありますね。

 意思の疎通しかり。
 記録の伝承しかり。

 煎じ詰めれば、これらはつまり情報の伝達なわけです。
 情報伝達において重要なのは、情報の劣化を防ぐということ だと思うのですが、この情報伝達にとって、漢字は非常に有効かつ 効率的な道具でね。

 漢字というのは、まぁいまさら言うまでもないですが、一文字で、 あらかじめ多くの情報を含有して創られている文字情報なのですね。
 読み方が数種類ある、というだけでなく、その漢字自体が成立か ら現在まで培ってきた多くの意味、用法などが、メタファーとして含 まれているわけです。
 だから漢字を使う国−−中国、韓国、および日本−−の人は、た とえば熟語のおおよその意味を、使われている漢字を見ただけで、 直感的に理解できる。
 まぁ、熟語の代わりに、アルファベットには単語があるわけですが、 単語に使われているアルファベットから意味を類推することはできま せんよね、たぶん。・・・僕は英語を母国語としているわけではな いので、確言はできませんが・・・(苦笑

 覚えるのが大変、という最大の難点はありますが、漢字は、文字 情報として非常に優れた特質を持っていると言えるでしょうね。


 サイト持ちや物書きに限った話ではないのだけれど、人の書く文 章には、いろんな個性がありますよね。
 美文にせよ名文にせよ迷文にせよ、「漢字の使い方」というのが、 ひとつポイントになってくるような気がするんですね。

 たとえば、「〜できる」って言葉ひとつとったって、「出来る」と 漢字を使う人もいれば、「デキル」と書く場合もある。僕は「でき る」と平仮名で書くのが好きですが、これも決まった話ではなく、 やっぱり書く人の自由裁量なわけです。
 こういうところで、その書く人の個性が現れ、センスが問われてし まうような気がしますね。
 他人の書いた文章が、自分に「合う・合わない」ということとも 繋がってくるんでしょう。
 たしかに、最低限間違ってさえなければ問題にはならないことかも しれませんが、僕のような、文章を書くことにこだわりの1つも持って いるような人間からすれば、この「漢字の使い方」というのは、バカ にできないものなんですね。


 そういえば、「当て字」という面白い表現手法もありますね。

 「目出度い」、「御座います」、「夜露死苦(笑)」などなど・・・。
 あげ始めたらキリがないですけど。

 これは、日本語の音を拾って、それを表すことができる漢字を当て はめたものですね。
 そう、賢明な人なら、もうお気づきでしょうが・・・。
 この「当て字」ってヤツは、構造が「万葉仮名」とまったく同じな んですね。

 日本最古の文字が、こういう形で1500年後にまで生き残っている という言い方もできるわけです。
 まぁ、誰1人、意識して使ってるだろう人はいないでしょうがね(笑


 さて。
 いろいろと触れてきたんですが・・・。
 こんなに大事な「漢字」なんですけど、最近ちょっと困ったことが ありましてね。
 ワープロ使うようになってから、ことにそうなんですが・・・。

 その「漢字」を、僕はどんどん忘れてっちゃってるんですよね(泣

H.13 12/8



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