口頭無形分化剤 その23


自縛(爆)術入門


 僕は仕事柄、ロープを触る機会が多いです。

 いや、別に縄師をやってるわけじゃないですよ(爆)
 トラックに荷物を積み込んで、それを固定するのに、よくロープを 使うのです。

 僕は山をやっていたので、多少とも心得はあったのですが、やは り仕事で使うとなると真剣味が違いますな。
 荷物を固定するロープが少しでも緩んでいれば、走っているトラ ックのことですから、1つ間違うと大惨事ということにもなりかねませ ん。
 マジ、しゃれにならんわけです。

 正式の名前は忘れましたが、荷物を固定するためにロープを絞り 込むテクを、俗に「万力をかける」と言います。
 トラックの運ちゃんにとっては必須、というか、できて当然の技能 ではあるのだけれど、たまにロープワークをまったく心得てない馬鹿 者がいるから困ってしまいます。
 僕が縛った荷物でも、何かあったときに責任を負わされるのはその 運転手なわけです。
 時給で働くバイト風情に、人生預けるようなマネしちゃあいけません。


 何回もやっていると、荷物の積み込みというのにもコツがあるのが わかってきますね。
 どこが危ない状態なのか。
 どこに力が掛かるのか。
 どこにロープを通せばいいか。
 どこを固定するべきか。
 こういうことがわかっていないと、どんなに力を込めて縛ってみて も、トラックが動けば必ず荷物が動き、ロープが緩み、結局荷崩れ を起こす原因になります。

 あれも「術」ですからね。
 やってみると奥が深い。


 最近考えてて気付いたんですけどね。
 この「縛るコツ」、一般論として通用するのかなぁ、とか、思っ てみたわけです。
 縛るのは荷物に限ったハナシじゃありません。
 縛ろうと思えば、人間だって「言葉」で縛れちゃう。
 そういう「魔法」を、「呪い」と言います。


 「人を呪わば、穴を二つ掘れ」

 こういう言葉を目にするたびに、僕は昔の人の偉さを思います。
 この言葉は、

「他人を呪うと、相手を上手く殺せたとしても、その「呪い」は返って きて、結局相手とともに墓に入らなきゃいけなくなるから、相手の 墓穴と一緒に、自分の墓穴も掘っておきなさい」

 といったような意味です。
 「呪い」なんてリスクの高いことはやるモンじゃないよ。「魔法」 は半端な覚悟で使ってはいけないよ、と言ってるわけです。
 昔の人ってのは、こういうことを、理屈抜きでちゃあんとわかって いたのですねぇ。
 凄いでしょ?


 「魔法」というのは、それがどんな可愛らしい小さなものであっ ても、もしそれを使った結果、何かしらの効果があれば、それは必 ず自分に返って来るという性質を持っています。
 つまり誰かを縛る「魔法」をかけたら、その「魔法」は結局自 分に跳ね返ってきて、自分を縛る「呪い」に化けるのです。
 文字通り、「自縄自縛」です。

 だから術者は、「魔法」をかける際は、あらかじめその「返って きた魔法」に対する防衛措置をとっておかねばなりません。
 受け流したり、耐えたり、かわせるようにしておいたり。
 これは「魔法」を使うときの、鉄則です。
 素人が生兵法でやると、これで必ずしくじって、痛い目にあいます。
 「魔法」を舐めてはいけないのです。


 さて、その「縛る魔法」ですが・・・
 さっきも言ったとおり、結局物を縛るのと同じ法則性があるのでは ないでしょうかね?

 つまり

 危ない状態を見極めて−−相手の弱点を見極めて
 力がかかるところを計算して−−強いところと弱いところを計算に入れて
 通り道を厳選して−−使う言葉と順序をよく選んで
 縛るポイントを決める−−相手のキモを掴んでしまう


 僕はまだまだ駆け出しなのでね。
 こういうおっかない「魔法」は、まだマトモには使いこなせないの です。

 以前に一度だけ、ここまで考えてではないですけど、生兵法で、 使ってみたことがあるのです。
 その「魔法」は、僕が思った以上の成果を挙げました。
 そして、きっちり、それは返ってきました。

 そのときの「呪い」がね。
 僕を今でも縛り続けています。

H.13 8/26



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