口頭無形分化剤 その14


「言葉」の魔力


 今日ここに書く内容は、科学的根拠を何一つ持ってはいません。
 すべて僕が持っている印象であり、妄想であり、虚言でさえある かもしれないということを、あらかじめお断りしておきます。
 判断は、皆さんにお任せします。
 ちゃんと始めに断ったんだから、困った意見が書いてあっても、 目くじらたてちゃダメですよ。


 さて。
 「言霊(ことだま)」って何か知ってますか?

 単語自体は非常に有名なので、聞いたことのある人がほとんどで しょう。
 「言霊」とは、言葉が持っている(と信じられていた)呪力のこ とです。

 昔の人は洋の東西を問わず、人や動物に霊があるように、「言葉」 にも霊が宿っていると信じていました。
 西洋、東洋を問わず、というところが一つポイントになるような気も しますが、ともかく言葉には何か霊的なモノが宿っていて、その霊妙 な力によって、人の幸、不幸を左右することができると考えられてい たわけです。

 ことに我が国は「言霊の幸(さきわ)う国」(万葉集)として、こ の様な信仰は古くから盛んで、「幸いでありますように」と声に出し て言えば相手が幸せになり、「無事でお帰り下さい」と言えば相手 は無事に帰ってくると、まぁ素朴に信じていたわけです。
 つまり僕らのご先祖は、自らが発する「言葉」に神霊を感じ、そ の「言葉」の超自然的(本人たちはそうは思ってなかったでしょうが) な力、働きを、「言霊」と名付けたのですね。

 とっても素敵な信仰です。
 けど、現代人は、そんなことは、まぁ考えませんよね。
 確かに素敵ではあるけれど、同じ理屈で、例えば「死ね」という 言葉で殺されたんじゃ、この科学万能の現代に生きている甲斐があ りません。
 そう。
 人が神霊を信じなくなったとき、「言葉」から呪力は消えました。

 けどね・・・。
 本当にそうなんでしょうかね?

「信じる者だけに効果がある」

 というのは、多くのことで解るように確かに一面の真理なのですが、 じゃ、「言霊」は信じてない者には効果がないものなのか・・・?
 つまり、神霊のような超自然的なものは最初から無くて、その無い ことに気づいた現代人は、「言霊」の呪力から解放されたのか・・ ・?

 「詩」というモノに触れてみて、感じたことがあるのです。
 「言葉」というものと、それが他者に及ぼす影響について、改め て考えるいい機会になりまして。
 僕が持っていた「言葉」というモノの印象が、ちょっと強化され たようなカンジなのです。あとは、論理的に整理すればいい。


 「詩」の書き方、なんて大層なことはとても言えませんが、僕が 「歪んだ螺旋」の中の「詩」を書くにあたって注意したこと は3つあります。

 @ 表面に現れる文字、つまり「詩」そのものを構成する 「言葉」に、「裏」あるいは複数の意味を持たせること。
 A 「詩」を読んでくれる人にとって、「表面の意味」ができ るだけわかりやすく、かつその人の心の奥にまで届きやすい表現形 式を使うこと。
 B 全体の構成でギミックを用意すること。

 Bに関しては今回の議論とは関係ないので除外するとして、 @は「詩」を書く以上必須の条件です。
 そして、ここで特に問題にしたいのはAです。

 文章を読むときの一般論として聞いて下さい。
 「優しい言葉」というのは、心の奥に素直に入ってきませんか?

 例えば「おとぎばなし」でも良いし、「童話」でも良い。
 優しい言葉には、優しい心が反応する。
 攻撃的な部分、硬質な部分では受けとらない。
 人情です。

 この場合、心の防御機構が働かず、心のナマの部分、粘膜質な 部分に、ダイレクトにその「言葉」が届くことになります。

 その「優しい言葉」に裏の意味を封じておいたのが、僕が書いた いくつかの「詩」なのです。

 「普通の詩」はあまりこういう構造にはなりません。
 僕の印象ですが、普通の詩は、「優しい言葉」を使って表面の 意味を表すことはむしろ希で、「難解な言葉」に深遠な意味を乗 せたり、「綺麗な言葉」に重い思想を乗せたり、それはそれは 様々です。
 もちろん、それを読んで受け取る人の方も様々で、一般論が吐 けるほどの研究をしているわけではないので何とも言えませんが、 とにかく今回の僕の場合に話を限定すると、意識してこの構造を創った 「詩」が何編かあるのです。

 なんにも気づかなかったよ、という人も多いかもしれません。
 無知とはときに幸福なモノです。

 忘れてはいけません。
 人間の心の作用は、すべてが内観できるわけではありません。
 っていうか、むしろ、人の脳のルーチンワークは、その人の無意 識下で行われるモノがほとんどなのです!

 アナタが気が付けないところに向かって、僕は呪文を投げたのです!
 アナタはすでに、僕の「言霊」に捕らえられているのです!!










 ・・・・・なんてな。
 嘘です。冗談です。

 でもちょっと怖いでしょ?
 その怖さを理解して貰うのが狙いです。

 僕がいま言ったことは、大筋で間違っていないように思うのです。
 心の深い部分に届いた言葉は、それだけその相手に対して大きな 影響力と拘束力を持ちます。
 そして、「心の深い部分」に届きやすい状態というのが、「信じて いる」状態ではないかと思うのです。

 昔の人々は神霊や言霊の存在を、文句無く疑いなしに信じていま した。
 だからこそ、言葉が持つ呪力はより効果的に相手を縛ることが できたのだと思います。

 大事なのは、この「構造」です。

 現代人にも「心の深い部分」があるのは確実です。
 「言葉」というものが人に及ぼす影響が古代からそう変わってい ないと仮定すれば、言葉によって相手を縛ったり、相手に何らかの 影響をあたえたりするということは、構造的に可能であるということ です。
 言い換えれば、この「構造」こそが「言霊」なのです。

 この「構造」を理解してさえいれば、同様のことが物理的にも行 えます。
 例えば−−
 薬物を使い、心身を朦朧とした状態にさせれば、人を割合簡単に 催眠状態にすることが出来ます。催眠状態の人間に「暗示」を与え れば、その相手の行動の多くを言うがままにすることが可能になりま す。
 やりかたはともかく、一度その状態になってしまえば、その人は 「言霊」の呪力の命ずる通りに動くでことしょう。

 「洗脳」なんかも、構造的にはこの部類に入ります。


 もう判りましたね。
 「信じる者だけに効果がある」のではない。
 「心の深い部分」に届く言葉が必要なのです。

 僕の言葉が、アナタの深い部分に届くでしょうか・・・?
 僕に一つ、魔法を掛けさせて下さい。

 心を開いて、僕の「言葉」に耳を傾けて下さい。

 そうすれば、「言霊」はアナタを導いてくれるでしょう。




「 アナタが どうか 幸せでありますように 」

H.13 7/28



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