口頭無形分化剤 その11


「玉突き」につき思うこと


 超久しぶりに、玉突きなぞしてみました。
 30分200円の値段に負けたんだけど、やっぱゲームオフなんか でやるもんじゃないなと後悔しきり。だって周り、ウルサイウルサイ。
 ギャーギャー騒ぐカップルはまだ我慢するとして、フラッシュ焚くな中国人!  んな珍しいモノでもねーだろー、玉突き。
 それでも3時間ほど堪能しましたケドね。

 1つの台に4人も固まって9ボールなんぞ突いてる若者を見るたび に思うんスけど、あれ、何考えてんでしょうね。
 ビリヤードなんて、限りなく1人でやるゲームなのに。
 せめて2人で対戦するくらいまでは判るんだけど、3人、4人にな るともうワケわか らん。順番待ってるくらいなら、もう一つ台借りなさいな。値段同じなんだし。
 って、文句言う筋合いのモンでもないケド。

 玉突きは高校の頃、はまっていたのです。
 いま考えると、あの頃が一番金持ってたなぁ(苦笑)。
 マイキュー持っていかなかったことに、後悔してみたり。
 でも、移動がチャリだしな・・・(泣)。

 で、久しぶりに突いてみて、ビックリ。
 腕落ちてるわー、俺。
 玉の厚みの感覚が全然ダメになってて、キスもまともにできない ありさまです。ハウスキューで突いてたこともあるんだけど、強弱 のバランスもめちゃくちゃになってるし。そこそこショットは切れて るんだけど、コントロールは甘い甘い。
 最初の90分は、もうひっちゃかめっちゃかです。
 次第に慣れてくると、バンクやキャノンもそこそこ当たるように なってきたけど、もう全盛期の片鱗もありませんな。
 視力が落ちたことも、関係があるのかもしれないケド(言い訳)。
 ま、もともとセンスもないのですが・・・

 ビリヤードというゲームはやればやるほど奥の深いモノです。
 ただ玉をポケットに落とすのではなく、ネクスト(次の玉の位置)を 考え、全体の玉の配置をも視野に入れた上で戦略を立て、一つ一つ のショットを組み立てていくという、いわば非常に高度な頭脳ゲーム。
 僕が好きなのは、その孤独さですね。
 これはゴルフやボーリングにもいえるかもしれませんが、他人と 競うのではなく、自分自身と戦うゲームが、どうやら僕には合ってい るようです。中学以来団体競技をしなくなったのは、そういうコトも 原因にあるのかもしれない・・・。

 勝敗とそれにからむ責任のすべてが、全部自分一人にかかってく るゲームが、どうやら好きなのです。
 仮に戦う相手がいたとしても、その勝敗はそれほど大きな問題に はならない。その戦う過程−−己の技量と精神力と、運まで含めた その試合内容そのものが、僕にとっては比重が大きい。
 いかにミスを少なくするか。
 いかに満足する結果を残せるか−−
 そういういわば自分との戦いが、僕は面白い。


 司馬遼太郎さんの随筆を読んでいて考えさ せられた箇所があるんです。
 司馬さんが少年の頃、ある少女が、キャッチボールを延々と続け る少年を見て言ったそうです。

「男は偉い」

 その少女からみると、キャッチボールほど不思議な光景はないん だそうです。
 遊びと言っても、ボールがただアッチへいったりコッチへいったり しているだけで、あんなに空しい、つまらない競技ははない。けれ ど男は、それを延々とやっている。

「しかしひるがえって考えてみると、男というものは子供のときから ああやって無意識に自分を鍛えている。体を鍛え、芸を練り、精神を 硬質なものにしようとしている。やはり男はすごい、と彼女は言うん です」

「なるほど考えてみたら、あれほど一見つまらないやりとりはないと 思いますが、しかしやっている当人たちにはそのやりとりの微妙なと ころに、法悦のようなものがある。たとえばいまの球は相手のグロ ーブにスポッと入ったとか、あるいは相手の球をグローブにピシッと 受けて、その受けたときの音、それが、身体へひびく感じまで含め て、同じ受けるにしても、1回1回が微妙にちがっており、当人たち はやりとりが単純であればあるほど、その微妙さをしんしんと味わっ ている。
 一種の練度の楽しみですね」(「手掘り日本史」)


 僕が好きであるのは、つまりは己を高めることなのでしょう。
 そしてその練度の高まりを、実感することなのでしょう。
 他人は、実はどうでもいい。
 自分の鍛えた業(ワザ)−−芸を発揮するその悦楽。

 何に関しても言えそうです。
 趣味であったり。
 絵であったり。
 仕事であったり。
 もしかしたら−−−

 だからある時から、僕は1人で玉を突くようになりました。
 デートでは、よほどのことがない限り、ビリヤードには行かない。
 だって玉突きでは、僕では相手の女の子を喜ばせたり楽しませた りすること出来ないのです。
 僕は玉を突いてるとき、常に不機嫌そうに眉根に皺を寄せている ことでしょう。ま、鏡で見たことはないのだけれど。

 ・・・・・・・・。
 つまんない男だな・・・。

H.13 7/15



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