計算機は「心」を持ち得るか

--計算機における「心」の実現に関する一考察-- ver. 3.2


3.機械と心


 「人工知能」という言葉がある。
 これは,学習,推論,判断といった人間の知能のもつ機能を備え たコンピュータシステムに対して付けられた名称である。しかし,こ の言葉は,「人工知能」の本来の意味ではない。「人工知能」と は元来,機械に人間同様の知能を実現するという目標に対して付け られた尊称である。そして,まさにこの「人工知能」を字義道理の 意味で実現することが可能であるかどうかという疑問は,認知科学 誕生以来の主要なトピックの一つであった。
 しかし現在においても,この,計算機に「人間の知能」という高 度な機能を持たせることができるかという問題,そして,そのことが 可能であるとしたら,それはいかなる場合において可能であるのか という問題に対して検討を加えることは,依然としてその重要性を失 っていないと私は信じている。そしてさらに付け加えるなら,計算 機に「心」を持たせることができるか,という私の興味も,まさに ここにある。

 前章における討究において,「心」というものがいかなるもので あるかということについて,私が立脚する位置を示した。
 この章では,「心」という ものを機械に持たせることが可能であ るか,またそれはどういうことであるのかという問題について,私な りに考察していく。そしてそれは私の「心」観を,計算機という 「心」をもたないものを使うことによってさらに明瞭に語るというこ とになるであろう。


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