ジンライム 独り飲む宵 水無月の 月なき夜に 雨音もなし
杯交わし 夢を語りていた友は 紫煙のごとく 明けに消えたり
なにごとかを 為したいと願い 今日もまた 無為に陽が暮れ 齢を重ねる
+ DEEP BLUE +
携帯電話が鳴るたびに あなたを思い出してしまう
無邪気に笑い はにかむその声を
季節を忘れて僕らは愛し合ったけれど それでもやっぱり時間だけは過ぎていて
人の誠実さなんてものも 時と共に変わっていくのかもしれない
タネを明かさないことが 手品師の優しさであったとしたら
僕はあなたを騙し続けるだけの 優しささえ失ってしまったということだろう
深い深い水の底まで あなたを連れてゆくことも考えたけれど
息が続かない無様な姿を見せることには どうも耐えられそうにない
世界には寂しさに震える人が溢れ 刹那の快楽に誰もが群がっている
売っているのは安物の愛ばかりだけれど それでも本物よりは楽らしい
あなたの声を乗せたデジタル信号が 本物の声であったかどうかはもう解らないけれど
それでも僕の過ごした時間が現実であったことを 僕だけは知っている
+ +
必要なのは ほんの少しの「勇気」と
「諦め」だけでしょう?
+ 高杉晋作 +
あざなえる縄のようだと誰かが言ったこの人生は
禍福を織り交ぜ繰り返されるだけの日常
楽しい時間と辛い時間を差し引きすれば
せいぜい5円玉ほどの価値もない
富める者も貧しき者も 愛された者も憎まれた者も
賢人も愚者も 英雄も凡人も
しょせんは時間と共に骨になってしまうのだ
そこにどれほどの違いがあるというのだろうか
5円の価値と想い定めて すでに死んだと心に決めて
人並みの暮らしを怖れ 安穏な日常を避け
ただ ひたすらに狂うことを目指したおかげで
本来さして面白いこともない人生を
こうも面白く過ごすことができた
+ 寓 話 +
裸足で歩いたその道は 剣のような岩肌で
ズタズタになった足裏に 容赦なく汗が滑り込む
顔を歪めた少年は まだあどけない横顔で
ズタボロになった服を着て 休みなく歩き続けてる
握りしめられた右手には 蛍のように儚げな
輝きを放つ鈍(にび)色の 泥にまみれた石がある
流した血で洗い清めた 宝石のようなその石は
朝の光にさらされて 薄いメッキが剥がれて落ちる
薄汚いその石ころが 賢者の石だと言う者を
あなたは嘘つきと笑うだろうか・・・
+ +
足りないのは覚悟ですか?
それとも イキオイですか?
+ +
破衣破笠 一草鞋
到る処の青山 骨を埋めんと欲す
石枕 夢は冷やかに孤渓の月
古寺 魂暗く 五更を懐かしむ
生を見る死の如く 死は即ち生
自ら言う 我はこれ方外の客
無情淡心 咏歌を玩ぶ
曾(かつ)て高位を抛って 肯(あえ)て惜まず
−高杉晋作−
+ 松陰先生がね +
「大器は晩(おそ)く成る」って言ってたよ
+ Distortion of Reality +
崩してしまえば良い
割れたガラスの破片 砂でつくった城
壊してしまえば良い
鬱血した澱み ヘドロのように溜まった闇
暴風雨が来れば良い
すべてを薙ぎ倒し 流し尽くせば良い
火砕流が来れば良い
すべてを焼き尽くし 埋めてしまえば良い
なにもかも 終わってしまえば良い
あとにはただ 晴れわたった空
+ 馬上少年過ぐ +
馬上 少年過ぐ
世平らかにして 白髪多し
残躯 天の許すところ
楽しまざるを これ如何にせん
四十年前 少壮の時
功名いささか また自ら私(ひそ)かに期す
老来識(し)らず 干戈(かんか)の事
ただ取る 春風桃李の卮(さかずき)
−伊達政宗−
+ +
その涙は 誰のために流しているのですか?
僕のためですか?
それとも 自分のためですか?
+ 虚構の詩(うた) +
僕が創った詩の中で
あなたは僕を愛してくれるフリをしてる
僕が創った詩の中で
あなたはシアワセでいるフリをしてる
嘘で固めた世界だけど
それでも現実には違いないから
手品のタネが割れるまでは
僕はあなたを 見守ってます
+ 禊ぎ +
「穢れ」を祓ひたまへ 「穢れ」を清めたまへ
纏った「人」を脱ぎ捨てた欲望
「穢れ」を祓ひたまへ 「穢れ」を清めたまへ
旋律は鼓動よりも早く 調べも高らかに忘我を遊ぶ
「禊ぎ」の時間は背徳 貪婪な獣にも似た咆吼
そこに祝福はなく そこにしか幸福はない
「穢れ」を祓ひたまへ 「穢れ」を清めたまへ
+ <今日の短歌> +
しとしとと 蔀を叩くこの梅雨を 古人は何故か 水無月といふ
蹴鞠なら 勝った負けたもなかりしを 賭けるは国の 恥と威信か
人の世に 無用のものと知りつつも 功名餓鬼の根は捨てられず
知らぬ間に 君を照らした月隠れ 闇夜に慣れば 君が隠れる
それこそが 無明長夜の灯火と 信じて行かむ いま来たる道
+ 贖罪 +
廃屋の陰で身体を休める 薄汚れた野良猫が
ひもじさで泣く子供を 不思議そうに見つめている
銀の瞳に映るのは 争いの記憶と諍いの記録
それが愛憎の証なら 人はなんと罪深き生き物か
慈しみも安らぎも 悲しみもせつなさも
お前は同じように持ち合わせているのに
知っているその過ちを また蒸し返し そして繰り返す
虚しさにつく吐息 独りなら強がる必要さえない
それはまるで 雲に隠されるために昇ってきたような月
+ +
だから 無知は罪なのさ