ガラガラと引き戸を開けると
嗅ぎ慣れた臭気が漂ってくる。
紙とインクとカビと・・・あと何だかわからないものが
混じり合った不思議なにおい。
けれど、やはり不快な香りではない。
「あぁ、いらっしゃい」
正面にあるカウンターの奥にいた丸縁黒眼鏡の少年が
分厚い本に落としていた糸目の視線を上げ
人懐っこい笑みを浮かべて迎えてくれた。
店内はあいかわらずである。
左手には堆(うずたか)く積み上げられた書籍
右手の飾り棚には、悪趣味なネックレスや
滑らかな石でできた不気味な立像、
銀製(？)の盃や短剣、蓄音機に似た機械などが、
いつものごとく脈絡もなく雑然と置かれていた。
日当たりの悪い右手奥のギャラリーもいつものままである。
「おひさしぶりです。あなたも暇を持て余しているようですね」
見た目に似合わぬ大人びた口調で少年が言った。
「ま、せっかく来てくれたんだ。ゆっくりしていって下さいな」
黒髪の少年は、再び書物に視線を落としてしまった。
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